人気ラーメン店を続けるということ
俺はラーメン店主だ
もともとラーメンを作るのが大好きで、子どもの頃からインスタントラーメンをアレンジして家族に振舞ったりしていた。
今思えばお世辞だったのかもしれないが、それでも両親は美味しい美味しいと言って喜んでくれたものだ。
学生の頃、一度だけ料理コンテストに出た事があって、入賞はできなかったけど、俺の作ったラーメンを美味しそうに食べてくれた人たちの幸せそうな顔が忘れられなくて、とうとう自分でラーメン店を開く事にした。
美味しいラーメンを提供するだけだとすぐに飽きられるだろうから、それにプラスしてどうしたら居心地の良い空間になるかいろいろと研究して試してきた。
そのかいもありオープン時から人気店となり、行列の出来るお店としてそこそこ知名度もある。
オープン早々にテレビや雑誌で取り上げられて入店困難になるお店も、1年そこそこで人気も下火になって閉店していく多くのお店があるなか、おかげさまで5周年を迎える事もできた。
なかなかお店には入れなくて文句を言われる事も、チェーンのラーメン店に比べて割高な事とか指摘される事もあるけど、オープン時から通ってくれている常連さんたちや、喜んで通ってくれるお客さんたちに支えられて、いまだに人気店でいられる事に感謝しかない。
オープンから5年で少しずつ味も進化していると思う。
スープの出汁に使う素材も日本中食べ歩いて見つけてきたものを厳選しているし、麺だって惚れこんだ製麺所に頼み込んで卸してもらっている。
季節やその日の天気はもちろん、実はお客さんの顔を見て、年齢や性別やその日の体調まで推し量って微妙に味付けや麺の茹で時間も変えている。
一流と言われるお店がしているような事は、出来る限り取り入れようと研究や努力をしているつもりだ。
高級料亭のような高価な器は使えないけど、安くてもうちのラーメンに合う食器を探し回って選んだりもしている。
何かの足しになるかなと経営者セミナーに参加した時の事。
主催者が「飲食店経営」なんてネームプレートを作るもんだからちょっと嫌な経験をした。
セミナー後の懇親会で手持ち無沙汰にしていると、真っ黒に日焼けして、そのくせ歯だけは異様に白く、はだけたシャツの胸元に喜平ネックレスをジャラジャラさせたオラオラ系のちょっと苦手なタイプの男に話しかけられた。
「飲食店ってどんなご関係の?」
「あ、練馬で熊太郎ってラーメン店をやってます」
なんだぁ、ラーメン屋かぁって態度が露骨に顔に浮かぶ。
「ラーメン屋って意外と手間がかかるくせにあんまり儲からないよね。客単価低いし。チェーン展開とかしないんすか?」
「いや、あまり増えちゃうと味が・・」
「あー、そういうの広がらないなぁ。レシピ売ってフランチャイズ化しないと。まぁそもそもラーメンじゃね。同じ手間かけるんだったら高級中華とかのが単価上げられるんでいいすよ。もしあれだったら相談乗るんで」
渡された名刺はすぐに捨てた。
さすがにちょっとへこんだ。
フレンチやイタリアン、和食や寿司店に比べて下に見られることが多い。
だけど立派に商売になっているし、少なくとも俺はラーメンが好きでやってるし、そのことにプライドもある。
美味しいものを提供して喜んでもらう事に何の差があるんだろう?
そんな事もあって翌日、閉店間際に来た常連さんに聞いてみた。
「なんでいつもうちの店に来てくれるんですか?」
「え?なんでって・・・そうだなぁ」
その常連さんはしばらく考えてこう答えた。
「まぁ美味いってのもあるけど、一番はあれだな。なんかここでラーメン食べると幸せな気持ちになれるんだよね」
うん。
つまりそういうことだな。
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