ワンショット!
今年は年初から色々あった。
家の売却
それに伴う引越し
仕事では異動があり
そして愛犬の死
思えばサヨナラばかりだ。
大切なものをいろいろ失った。
でも考え方を変えればポッカリ空いた穴を新しいモノやコト。
そしてヒトで埋めるチャンスなのかもしれない。
しばらくお休みしていた撮影もちょっと復活しようと思う。
少し作風も変えてみようかとも思う。
今までは、良く言えばナチュラル。
悪く言えば行き当たりばったりでテキトーで何の考えもなくモデルさん任せで・・・まぁ今日の所はこの辺にしといてやらぁ!ハァハァ
モデルさんの自然な笑顔が撮れればそれで満足。
だけど新たなチャレンジとして、ちょっと諸々を計算しつくしてストーリーが自ずと浮かんでくるような写真を撮ってみようと思う。
そしてちょっとオトナな要素も含んでみようかと。
オトナの男と女。
許されない恋愛の束の間の逢瀬がテーマだ。
夜。
ホテルの部屋が舞台だ。
部屋から夜景が見えるホテルがいいな。
さらにバスルームからも見えればなお良しだ。
数年前から目をつけていた歌舞伎町のホテルは今となっては使い古された感がある。
ここは復活記念でちょっと奮発しようじゃないか。
て、事でホテルはリッツカールトンのミレニアスイートに決める。
1泊12万か。ぐぬぬ。まぁ良いだろう。
家売って借金も帳消しになったからなんとかなるだろう。
もしかしたらモデルさんも「きゃー、すごーい!え?え?撮影だけでチェックアウトしちゃうんですか?もったいなーい!泊まりましょうよ。森熊さんなら安心だし。それに、もしかしてもしかしちゃっても、森熊さんとなら・・・」なーんて事になるかもしれないじゃんか!との妄想が後押しをした事は否定しません。
さて、舞台は揃った。
で、モデルさんは誰にする?
当然ここはある程度、肌の露出オーケーなモデルさんて事になるわな。
しかしだ。
そんなモデルさんに知り合いはいないぞ。
そもそもモデルさんに知り合い、ほとんどいないじゃんか(泣)
こうなったらあれだ。
ダメ元で人気モデルさんを口説き落とすぞ。
なんつったって1泊12万だからな!
で、この際だからって事で、清純イメージなんだけど密かにナイスバディと目星をつけていたあのモデルさんにオファ。
意外な事に「おもしろそうですね」って事であっさりオッケー。
どうやら最近自分でもモデルとしての限界を感じ始めてて、殻を破ってみたかったんだそうな。
さすがにヌードは無理だけど、ランジェリーまでなら良いですよと了解を取る。
こうなると俄然やる気が出てくる。
撮影イメージはこうだ。
夜景の見えるバスルーム。
照明は消えている。
夜景はアウトフォーカスでほんのり点光源が見える感じ。
モデルさんは全身水濡れ。
濡れた白いシャツから赤いブラが透けて見える。
リアリティを求めるなら黒なんだろうけど、ここは赤だ。
道ならぬ恋に溺れる女性の情念の象徴としての赤だ。
全体的に彩度の低い画になるだろう。
だからどこかに赤いオブジェを配したいな。
クリスタルのリンゴなんか良いな。
ネットで探してみる。
えぇ!3万5千円もするんか!
しかしこうなりゃ買うしかあるまい。
だってあのモデルさんがオーケーしたんだぜ!
髪も濡れ髪だ。
しかも水が滴るくらい。
設定はこうだ。
つい最近まで最低の行為として忌み嫌っていた「不倫」の罠に自分が落ちてしまった事に苦悩する女。
男の到着を待つ間、帰るべきか、このまま欲望に身をまかせるか逡巡する。
そんな状況に抵抗するように服のままシャワーを浴びたわけだ。
文字通り頭を冷やすと、なんだかこんな事をしている自分がバカバカしくなってバスタブに腰をかけてぼんやりと夜景を眺めている。
そこへ男が到着し、バスルームにいる女を見つける。
男に気がついた女は振り返る。
茫然自失した少女から、道ならぬ恋の情欲に溺れる女の表情へ切り替わる刹那を切り取るんだ!
このためにレンズも新調した。
13万はちょっと痛いが、なんのこれしき!
さらに三脚もこうなりゃヤケクソだぁって事で新しく購入。
安定性重視でGITZOだぞ!当然10万超えだよばかやろー!
まぁでもあのモデルさんがオッケーしてくれたんだから。
モデルさんにはDMで撮影イメージを詳しく説明した。
最初は経験の無さからうまく表情がイメージできなかったらしい。
俺がしつこく細部のディテールを説明して、あまりの熱意にほだされたのか、最後には「わかりました。理解できるようにちょっと不倫してきます!」って冗談を飛ばすくらい。
なんて頼もしいんだ。
確かに不倫のフの字も感じさせない清純なモデルさんだからな。
さて、役者は揃った。
あとは俺がそれをどう料理するかだ。
シチュエーション的にモデルさんは完璧にシルエットになってしまう。
外の夜景を生かしつつ手前を起こすとなると手っ取り早いのはストロボなんだが、壁バウンスしたところで不自然だ。
レフで起こせる光源もない。
レタッチでそこだけ明度を上げる事も可能だけど、今回これだけ気合も時間もお金もつぎ込んでるんで安易にデジタルに頼りたくない。
徹底的にシミュレーションしてISO感度をノイズが出るギリギリまで上げて、補助光としてうっすらLEDライトを使う事にした。
とうぜんLEDはManfrottoだ。はい10万超えですよ。うわぁん。
今までなら何ショットもシャッター切ってその中から良さげな一枚を選択するんだが、今回はワンショットにかける。
そう。
映画「ディアハンター」と同じ心境っす!
ニックに乾杯っす(意味不)
さて当日。
たったワンショットのために中古なら車が買えちゃうくらいの費用をぶっこんだおかげで、モデルさんのパフォーマンスも神がかってた。
ちなみにランジェリーはビクトリアシークレット。当然費用はオレ持ちだ。
まぁここまでくると感覚が麻痺してるんで、へぇ意外と安いねなんてもんですよ。
しかし圧巻だったのはやっぱりモデルさんの表情とかポージング。
密かに目星をつけていた通り、ほぼ完璧なプロポーション。
普通の女の子だと思ってたのに「夏の日の1993」状態です。
童顔にナイスバディって男子の憧れですよね。
めっちゃくびれたウエストからたっぷりと量感のあるバストへの完璧なライン。
濡れて透けたシャツから見える赤いブラジャーに包まれた胸の膨らみが、さりげなく見えるギリギリの角度に体をひねる。
振り向きながら視線の端に愛する男の姿を捉え、身体中からオーラのようにフェロモンを発散する様は、さながらビーストモード発動のEVA弐号機のようだ。
その女の覚悟の凄まじさを浴び思わず全身に鳥肌が立つ。
たじろぎそうになる心をすんでのところで立て直しながら集中力を研ぎ澄ました。
官能と切なさをはらんだ艶やかなモデルの視線が今まさにレンズ越しに俺を射抜こうとするコンマ数秒前を俺は逃さなかった。
撮れた!
最高の瞬間だ。
モデルさんもたった一度のシャッター音のそのタイミングで全てがうまくいったことを確信したのだろう。
自分の持てる力を出し切った満足感と安堵感からか自然と涙を流していた。
液晶モニターで確認する。
小さなモニターからでも俺が意図した通りの画が撮れているのがわかる。
夜景もボケ過ぎず、主張し過ぎず絶妙な背景。
リンゴの赤もワンポイントで効いている。
モデルさんも満足そうだ。
「すごい!!!私じゃないみたい!!!」
本当なら明日の昼まで自由に使えるホテルの部屋も早々にチェックアウトして現像のため家路を急ぐ。
まぁモデルさんがそそくさと着替えて「お疲れ様でしたー」って速攻で帰っちゃったってのもありますが(汗)
さて、PCを立ち上げる。
SDカードをスロットにさしデータを読み込む。
今までの準備の苦労が蘇りちょっと泣きそうになる。
緊張の一瞬。
秋葉原のバッタ屋で買った安っすい中華製のSDカードが全く認識せず、すべてが夏の夜の夢として消え去った事実を絶望と同時に悟る夢を見て泣きながら起きた。
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